天才・新井場縁の災難(1)第1話①観光しよう【ミステリー】

第1話①観光しよう

……7月25日正午…京都駅……

京都の夏は暑いと云われている。京都駅に到着した縁と桃子は、その暑さを実感した。

「暑いな……」縁は額の汗を腕で拭いそういうと、桃子も京都の暑さを体感してるようだ。

「予想以上の暑さだな……。縁、京都は……始めてか?」

「うん?ああ……前に一度だけ来たよ。俺、あまり百合根町を出たことないんだよ」

「だろうな……縁は海外生活が長いから……」

桃子の言う通り、縁は15歳までほとんど海外で生活していた。

縁は言った。「そうなんだよなぁ……俺、日本はあまり巡ったこと無いんだよなぁ…」

「だったら、ちょうど良かったじゃないか」

「まぁねっ……だから桃子さんには少し感謝してるよ」

「少しとは何だっ、少しとは……まぁ喜んでくれてるなら、良かったが」

縁は桃子に訪ねた。「んで……これからどうすんの?」

「ホテルにチェックインする……すぐそこにある…」

桃子が指差す方向に、ホテルが建っている。

現在の二人の位置は、京都駅の南側『八条口』と言う場所で、八条通りと言う通りに面している。

京都駅にはもう一つ北側に出口があり、そちらは七条通りと言い、京都タワーなどがある。

七条側は大きめのバスターミナルがあり、二人のいる八条側はタクシー乗り場がある。タクシーの量も凄い台数で、山のようにタクシーが並んでいる。

桃子はホテルに向かって歩き出した。

姿勢の良い桃子は歩いても様になっている……タイトなパンツにノースリーブの白いシャツ、シンプルだが地味さが桃子にはまるで無い。

一方の縁も、これまた様になっている……桃子と同様に、青と黒のチェッカー柄のシャツに、色の濃い目のジーンズとシンプルだが……ルックスが良いので様になっている。

回りから見れば、美男美女のカップルに見えるのだろう……現に回りの人々は、すれ違い様に、二人の事をついつい見てしまっている。

ホテルに到着した二人は、チェックインを済ませて部屋に荷物を置きに行った。

当然ながら、二人は別々の部屋だ。

二人は10分後ロビーで落ち合う事にし、それぞれの部屋に入った。

部屋に入った縁は、部屋を見渡した。「普通だな……」

縁の第一印象の通り、部屋は実にシンプルだった。

窓際にテーブルとチェアー、中央にベット……バスとトイレ、普通としか言いようが無い。

10分後、約束通りにロビーに向かうと、桃子はすでに待っていた。

「行くぞ、縁……」縁を確認すると桃子はスタスタとホテルを出ようとした。

置いて行かれると思った縁は、あわてて桃子を追いかける「ちょっと待ってよ……桃子さんっ!」

桃子の出ていった先は、ホテルのタクシー乗り場だった。

桃子に追い付いた縁は、桃子に聞いた。「タクシーで移動するのか?」

「ああ……外は暑いからな、タクシー移動なら快適だ」

これには縁も同意した。「確かに……この暑さだと、熱中症になりそうだ…」

二人がタクシーに乗り込と、運転手が行き先を聞いてきた。

「お客さん……どちらまで?」

運転手が放つ関西弁のイントネーションに、少し違和感を覚えながらも、桃子は運転手に聞いた。

「昼食をとりたいのだが……何処かお勧めは無いか?」

運転手は少し考えている。「そうですなぁ……和・洋・中どれがよろしい?」

「縁……どれがいい?」

桃子に振られた縁は、少し考えて言った。

「暑いからなぁ……何か涼しい物がいいな……」

すると運転手は「ほんなら……ざるそばとか、どうですかぁ?私、美味い店知ってますよ」

桃子は言った。「蕎麦か……悪くないな、どうだ縁?」

「いいんじゃねぇの……」

桃子は運転手に言った。「では、そのお勧めの蕎麦屋に向かってくれ…」

「了解しました」

そう言うと運転手は、タクシーを走らせた。

走り出したタクシーの後部座席から外を見てみると、観光客らしき人々がたくさん歩いている。

流石は観光都市、京都である。

運転手が二人に話しかけてきた。「お客さんら……どこから来はったんですかぁ?関東の方?」

桃子は答えるつもりが無さそうなので、代わりに縁が答えた。「あ、はい……東京です」

運転手はやっぱりと、いった感じで二人に言った。

「そうやなぁ……お客さんら、東京って感じするしなぁ、美男美女のカップルってとこか…」

縁はすぐさま運転手に否定した。「あの……運転手さん、違いますから……」

「違うって……恋人同士やないんかいな?」

運転手は何故か残念そうだ。

すると運転手は、今度は桃子の方をルームミラーで確認して言った。

「そちらのお姉さん……どっかで見た事あるんやけどなぁ……」

その言葉に反応した桃子は、縁に嬉しそうに言った。「聞いたか!縁……私を見た事あると言っているぞ…」

「何をはしゃいでんだ……」

冷静な縁を気にする事無く、桃子は言った。「私も、有名になったもんだ…」

すると運転手は桃子の正体に気付いたようだ。「お姉さん、最近……なんか、えらい立派な賞を貰ってはった……」

桃子はニヤリとした。「そうだ……作家の小笠原桃子だ」

「自分で名乗っちゃったよ…」

縁は呆れている。

運転手は桃子に言った。「そやそやっ、なんか見た事ある思ったら……テレビでやってたわ。後でサイン貰えますか?」

桃子はご機嫌だ。「10枚でも20枚でも、いくらでもくれてやるぞ」

盛り上がる二人とはよそに、縁は窓の外を見つめて呟いた。

「やれやれ……何を盛り上がってんだか……」

そうこうしてる内にタクシーは、運転手がお勧めする蕎麦屋に到着した。

上機嫌だった桃子は、約束通りに運転手の手帳にスラスラとサインを書いた。

縁はその様子を見て呟いた。「いつサインの練習をしたんだ?」

タクシーを降りた二人は、蕎麦屋に向かった。

昼時もあってか、蕎麦屋の前は少し列ができていて、少し待たないといけない状況だった。

縁と桃子……二人の美男美女は、他の並んでいる客の視線を集めた。

だが、そんな事を気にした様子もなく、二人は会話をしている。

桃子は言った。「この人数なら、あまり待たずにすみそうだな」

「そうだな……せっかく来たから、少しくらい並ぶよ」

相変わらず日差しは強いが、蕎麦を楽しみにしている二人は、暑さを我慢して順番待ちしている。

そして、とうとう待ちに待った蕎麦の時間がやってきた。

店内に案内された二人は、テーブル席に座った。

店内はこれぞ蕎麦屋と、いった感じの雰囲気を出しているて、和を強調した店作りだ。

二人は店員にお勧めを聞いて、それを注文し、それを今か今かと期待を膨らませ…そして、その時はとうとう来た。

二人が待つテーブルに、ざる蕎麦が届いた。

縁はそのざる蕎麦に圧倒された。

丸いざるに盛られた蕎麦に、数種類の薬味……その傍にうずらの卵が一つ…。

薬味は……刻んだ九条葱、みょうが……そして、すりおろしたワサビ…。

うずらの卵を蕎麦つゆに落とし……さらに、全ての薬味を投入する。

この行為だけでも、ヨダレが出てきそうなくらい、食欲を誘った。

二人は「頂きます」と、言い……箸を蕎麦に伸ばした。

箸で掴んだ蕎麦を、用意した薬味たっぷりの蕎麦つゆに投入し、つゆに浸った蕎麦を一気に口に入れた。

蕎麦を口にした二人の表情は、先程の暑さから一転して、涼しげな表情になった。

縁は言った。「うっ、美味い……」

縁につられるように、桃子も「確かに……これは美味いぞ……やるな、あの運転手」

「運転手さんに感謝だよ…」

二人は会話も忘れて、蕎麦を頬張った。

二人とも見事に蕎麦を完食し、蕎麦の余韻に浸っている。

「いやぁ、ほんとに美味かったよ……」

「並んだかいがあったな……」

「んで、桃子さん……次はどこに行くの?」

「そうだな……ここからだと、東本願寺が近い……そこに行ってみよう」

縁はふと思った事を、桃子に聞いた。「桃子さん……まさか、ノープランじゃないよな?」

桃子はあっさり言った。「私は……予定は未定派だ」

「偉そうにいう所じゃないでしょ」

呆れている縁をよそに、桃子は立ち上がった。「さぁ……行くぞ、縁…」

仕方ないので縁も立ち上がった。「へいへい……」

そうして、二人は店を出て東本願寺へ向かう事にした。

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